森の別荘

妹島和世

この建物は、東京から車で2時間半ほどの長野県蓼科の別荘地に建つ。深い森に覆われた山の中の別荘地で、ここでは敷地がどこまでかわからず、区画という概念を忘れさせる。また背の高い樹々は日射を分散させ、方位という方向性をなくし、一種の均質空間をつくっている。ここに、画廊のオーナーでもあるクライアントは、夫婦のための別荘兼ゲストハウス、芸術家のための創作の場を望んだ。私たちが要求されたのは展示壁のあるアトリエとリビング、ふたつの寝室、浴室からの眺望、車で直接建物にアプローチすることなどであった。

これらの与条件と、冬の寒さや雪のことから、どこにでも開口が取れる鉄筋コンクリート壁式構造を選択した。平面的には、自然の均質空間の方向のなさを持続できるのは、円形がもっとも可能性があると判断し、実施案が決定された。また断面的には、方向性が唯一見られる敷地の傾斜に対応し、それとほぼ同じ勾配で、傾斜と逆の向きに屋根勾配が決められている。これらによって、円形と、緩やかに変化するリング状のふたつのワンルームを得ている。前者を全面トップライトによる、自然光あふれるアトリエとし、後者はキッチン、ダイニングや、一部吹抜けには寝室が東面して配され、生活のための諸機能を納めたリビングに当てられている。

このふたつのスペースは異なる性格上、建具を閉めれば完全に切られ、単独での使用も可能である。一方、ふたつを一体として使用するためや、眺望や採光を得るために、コンクリートの壁には、いろいろな開口が取られている。リング状に閉ざしたことで得られる、終わりのない回遊性の中に、突然森の中に入り込む動きや、視線が取り入れられており、これらのことによって、開放的な体験ができることを目指している。白く塗られた外壁面とアトリエの壁面には、樹々の影や日の光が映り込み、あたかも大自然の中に置かれたスクリーンのように表れている。

船木幸子(妹島和世建築設計事務所)
新建築住宅特集1994年5月号