伊豆多賀の家

吉村順三

静岡県・熱海市にある、女性実業家の家族のための週末住宅。相模湾を望む、かつてはみかん畑が広がっていた高台の傾斜地に建てられている。吉村が土地選びから関わったことから、周辺の自然環境との調和、とりわけ、風景が設計の重要な主題の一つになっている。

1000坪にも及ぶ広大な敷地を入ると、従来の吉村建築とはイメージが異なる、寄棟風の屋根とレンガタイルの外壁の建物が現れる。右手に建物と芝生を見ながらアプローチを進むと、山側、北西の方角にある玄関に辿り着く。天井高を抑えた親密なスケールの玄関を通って廊下を進むと、海に向かって窓が水平に大きく開かれた、広々としたリビングとサンルームが左手に現れる。遠景に初島、近景に網代沿岸の突端を捉えるように、主となる生活空間は、南東の方角に向けて配置されている。東西に部屋が連なる、個人邸のスケールを超えたような広い室内であるが、個別の空間同士のゆるやかな繋がりが、邸宅全体に空間の連続性をもたらしている。

一階は、リビングを中心に西側に、引き戸で仕切ることができるダイニングがある。リビングとひとつながりの空間として想定されているが、独立した空間としても使える。

キッチンは、出入り用の扉と、カウンター程の高さに設けられた横開きの窓を通して、ダイニングと繋がっている。キッチン中央にはアイランドテーブルが設置され、頭上の天窓からは自然光が注ぎ込む。キッチン奥は、パントリーとランドリールームがあり、それぞれ地階と勝手口に繋がっている。

東側には、引き戸を隔てて、サンルームと横並びの書斎があり、廊下を経由したさらに奥には、浴室、洗面所、トイレ、ウォークインクローゼットを備えた主寝室がある。

二階には、階段を上がると小さなユニットバスがあり、廊下を進むと、左手に来客用の寝室と、突き当たりに、吹き抜けでリビングと繋がった子供部屋がある。リビングと階段付近に設けられた二箇所の吹き抜けによって、垂直方向にも空間が広がっている。

邸宅全体を通して使われている、引き戸や障子などの開閉自由な間仕切りは、個別の空間の独立性を保ちながらも、空間同士の繋がりを自由にしている。

窓からの風景と並んで、空間に豊かさをもたらしているのは、部屋ごとに選ばれたカーペットの色彩である。周囲の自然環境を写し出したように、リビングとダイニングにはペールグリーン、玄関と廊下にはレッド、書斎にはブルー、寝室にはサンドベージュのカーペットが敷かれている。

外壁と、リビングの壁面の一部に使われているレンガタイルは、海外の生活や文化に精通していた施主の要望であったが、熱海の土地にも違和感なく調和している。庭に設けられた、レンガブロックのファイヤーピットは、文字通り、半分埋まるようにして、地形に溶け込んでいる。建物裏の山をなぞるような建物の輪郭は、吉村の後期作品に登場する急勾配の大屋根を予見しているようだ。

完成竣工から半世紀近くが経過し、周囲の環境は変化したが、海、山、太陽、大いなる自然と建築との関係性は、吉村が思い描いたまま、現代に生き続けている。